もうずっと家に帰っていなかったアスカがようやく諜報部の人たちに見つけられたと聞いた時は、
心配をかけられたという憤りより安堵の気持ちの方がはるかに大きかった。
(だってアスカは、エヴァで出られない僕の身代わりになった)
けれどその晩、ネルフ本部から戻ったミサトさんはしばらく宙を見つめて動かなかった。
何か言いたいことがある時の顔だ。
「アスカ、何かあったんですか」
早鐘のような心臓の音を誤魔化しながら何でもないように聞くと
見つかったアスカの心はもう壊れてしまっていた、とミサトさんが悔しそうに呟いた。
“使徒との戦闘内における精神の崩壊”。それが今のアスカに与えられた賛辞。
“有効な治療法は依然見つからず”。それが今のアスカに与えられた最期。
今はネルフの施設に入院しているらしいが、もうずっと面会謝絶の日が続いている。
虚ろな目。
空ろな心。
きっともうその口が僕を罵ることも無ければその手が僕の頬を叩くことも無い。
「シンちゃん、いる?」
「……どうぞ」
「これ」
「何ですか?」
ミサトさんから“特別よ”という言葉と共に渡されたのは、病室が写ったビデオテープだった。
一分間ほどの短いそれは、それでもアスカの状況の切迫を伝えるには十分なもので。
定期的に鳴る心電図がまるでメトロノームのようにアスカの鼓動をなぞる。
それでも動かない腕。足。目。前までは鬱陶しさを感じるほどだったその口でさえ。
(アスカは何を思い出したんだろう)
巻き戻しては再生を繰り返し、テープはいつしかノイズが混じるようになった。
何秒かごとに一瞬掻き消えるアスカの姿に、不安と焦燥だけが僕を支配する。
(僕の心もいつか壊れるのかな)
(それで皆に、“早く死なないか”なんて待ち遠しく思われるのかな)
ならいっそのことこの脳髄をかち割ってしまいたい。
◆
あの辺は見てて辛かったですね……っていうか皆があまりに病みすぎててビックリした覚えが。
最期のフレーズがぽんと浮かんだのでそこから考えました。
大人に絶望されることに怯えるシンジ。まあゲンドウのあの感じだとそうなりますわな(^p^)