つい先程まで、ネルフ本部作戦会議室ではダミープログラムの今後について会議が行われていた。
実に三時間にわたる会議の結果は、“ダミーの使用継続”。
初号機が参号機を破壊したあの惨状を見せられると、正直躊躇いもある。傷ついたアスカを見れば尚更。
だが、委員会と政府関係者は『これ以上子供に未来を任せられない』と苛立ちを隠さなかった。
あいつらがエヴァに乗ればいい、とは激高した葛城さんの弁だが、本当にその通りだと思う。
“命令違反及びエヴァ初号機の私用”の罪で
参号機破壊の日からネルフ内に拘束されていたシンジ君とすれ違ったのは、
その会議が終わってから二十分と経たない、作戦室前の廊下だった。
「シンジ君…………」
今から碇司令のところで最終通達を受けるのだろう。
担当者に付き添われて歩いてきたシンジ君は、僕の横で手錠を鳴らしながら足を止めた。
「…………ありがとうございました」
「え?」
咄嗟に何のことか分からず、微動だにしない横顔を見下ろすと、
シンジ君はこちらの表情を伺うように一瞬だけ視線を上げた。
それだけの動作がネルフへ来たばかりの頃のシンジ君を思わせて、時が戻ったような感覚に陥る。
「ありがとうございました。あの時、僕を叱ってくれて」
しばらくの沈黙の後に、参号機のことで逆上しているのを止めた時のことだと気付いた。
「……いいんだよ。君たちは僕らにとって弟と妹みたいなものだから」
できるだけ感情を込めたつもりだったが、伝わっただろうか。
同年代の子供たちに無条件で与えられる筈の庇護を受けない彼らは、脆く傷つきやすい。
碇司令は仕事に一切の私情を挟まない。たとえ周りがそれを咎めなくても、だ。
だからあの時も、決して“叱る”ことはしなかった。誰が聞いても、あれはただの命令でしかない。
きっと、あのやりとりがシンジ君をまた自分の殻の中に追いやったのだ。
この後いったいどんな処分になるのかは、ネルフ職員にも知らされていない。
まさか適合者がネルフを追い出されるなんてことはないと思うが、不安だった。
いくつも傷や痣の残る足を引きずるように歩く痛々しい姿を見送った後、
ふと肩に手を置かれて振り返ると、辛そうな顔をした葛城さんがそこに立っていた。
「シンジ君、また前と同じ目になったわ」
さっき僕が感じた違和感を、葛城さんも感じていたらしい。
帰ってくれるといいけど、と頼りなげに呟いた葛城さんは、珍しく保護者の顔を隠せずにいる。
「……行きましょう。そろそろダミープログラムの動作実験、始まるわよ」
「はい」
(ただ誰かに愛されたいと願った子供に罰を与えることが異常だと、何故誰も気付かないのだろう)
◆
シンジにとっては叱られるってことすら貴重なことなんだよな……(´・ω・`)
そのへんのことはネルフのお兄さんお姉さんたちが面倒みてあげてほしいな!という妄想の産物。
実際初号機にネルフ破壊されかねないのに、あそこでシンジに言い聞かせたオペレーター3人は相当根性あると思うんだ。
「弟妹みたいなもんだから」発言は、エヴァゲームの日向さんセリフから。日向さん……!