「しっかしやかましいのぉ」
「最近特に暑いからね」
うるさいぐらいに響く蝉の声の中を、トウジと二人でネルフへ向かっていた。
トウジがフォースチルドレンに選ばれて松代から戻って以来、
僕たちチルドレン四人は男女二人ずつで別れて行動することが多くなった。
リツコさんやミサトさんの配慮で男女分けて実験に呼ばれるようになったから必然的に、だ。
ハーモニクステストの機械が当面三台しか用意できないというのも大きな理由らしい。
(政府との予算交渉や設備の貢献度による優先権がという話もされたけど、そこは正直よく分からなかった)
アスカはともかく綾波と一緒になるのは元々ネルフか学校だけだったから、
使徒も現れない今、チルドレン全員が揃う場所は学校だけだ。
その学校も最近綾波は休みがちで、どうしているのかすら分からないことが多い。
(綾波、元気だといいけど……)
こんな時ふと、自分たちの繋がりが案外脆いものだったことに気付く。
同じもののために、同じように命を懸けて、同じ場所に通っていても
少し会わなかっただけでこんなふうに他人事のように彼女のことを考えるようになるのだ。
「どないしたーセンセ?」
「え?あ…………うん、何でもないよ」
「ホンマかあ?センセは“何でもないよ”言うて、いっつも何でもあるからなぁ」
そう言って笑うトウジに、一瞬ギクリとする。トウジは時たま、妙に鋭い。
今日はシンクロ実験だけの筈だから、長くても一時間ぐらいで実験は終わるだろう。
終わった後に遊ぶ約束をして、それぞれのエヴァに乗り込む。
初めて乗った時はあんなに気持ち悪かったLCLに浸かると、もう一つの家に帰るような気分になるのが不思議だった。
そういえばトウジも、あの溺れるような感覚が忘れられないらしい。
しばらくは顔を洗うのにも苦労したと話した時のトウジの必死な口振りを思い出して小さく笑うと、
コポリと泡が幾つかLCLに吸い込まれていくのが見えた。
正直、男女で実験を分けられるようになって気持ちは安定してきたというのが本当のところだ。
アスカは少しでも実験結果が気に食わないと苛々していたし、綾波はよく分からない。
対してトウジは明るくてこれでもかと単純で、でも僕の中に必要以上には踏み込まず隣にいてくれる。
きっとそんなトウジに僕は救われているのだ。
「今日も疲れたわー……」
「大丈夫、トウジもきっとすぐに慣れるよ」
「センセーら、よぉこんなん毎日やっとったなあ…………あ」
帰り道、何かを見たトウジが突然足を止める。
つられて前を見ると、資料の束を抱えた日向さんが右から左に走っていくのが見えた。
二人分の視線を感じたのか、チラリとこちらに目をやった日向さんは僕たちに気付いて笑う。
「今日はお疲れ様。気をつけて帰るんだよ!」
「お疲れさんですー!」
立ち話をする時間は無いようで、日向さんはそれだけ言うとそのまま立ち止まらずに行ってしまった。
トウジがまるで部活帰りのような返事をするのを聞きながらふと、僕に足りないものはこれなんじゃないかと考える。
人の好意をそっくりそのまま返すという何でもないことが、トウジには簡単にできて僕には難しい。
チルドレンに選ばれて、一緒にエヴァに乗って、立場は同じになった筈。
なのに、やっぱり何かが違う。
(なんか…………疲れてるのかな、最近)
「あ。シンジ君、トウジ君!」
崩れそうになっている資料を抱え直しながら、日向さんが消えた筈の廊下からもう一度顔を出した。
「明日からテストの担当は僕になるから、ヨロシク」
「ほんまですか!?」
どうやら男女を分けるだけでなくテスト中、僕たちと通信するのも伊吹さんから日向さんに代わるらしい。
プラグスーツ姿を女の人に見られることにまだ抵抗があるらしいトウジは、隣で大はしゃぎしている。
「それじゃあ、また明日ね。さようなら」
まるで学校帰りの先生のようなトーンで日向さんが僕たちに向けた、まるで邪気の無い笑顔。
僕が遥か昔に失くしてしまったものを、この人はまだ持っている。
(やっぱり、笑った顔がトウジと同じだ)
「…………さよなら」
“さようなら”と言って笑うには、どうしたらいいのだろう。
別れの挨拶がいつも、永遠の別れに聞こえる僕は。
(僕はあんなに巧く笑えない)
◆
何だか最初思ってたのと違う……wとりあえず何も考えず明るくシンジに接するトウジ&日向さんと、
それに救われたりそれが辛かったりする矛盾だらけのシンジと
男子同士の方がいいというよりは、ガンガン心に踏み込んでくる女子から逃げたいだけなシンジが書きたかった。
あと思春期の子たちにとってはあのプラグスーツ、色んな意味でちょいキツい気がします(笑)
作戦部の日向さんと技術局のマヤが交代なんてないと思いますが、これぐらいの配慮があってもいいのに!