覚悟とは愛だった
コツコツコツコツ。
コツ コツ コツ コツ。
できるだけ先に進まないよう、ゆっくりゆっくりと歩く俺の前を
事務局員(エリー、だったよな。確か)が俺の二倍近いスピードで歩いていた。
なのに俺との距離が少し離れると必ず立ち止まって、
俺が近付いてくるのを急かすでもなく訝しがるでもなく律儀に待っている。
(背中に目でも付いてんのかよ)
常に画面越しのディーラーたちといい、目の前のエリーといい
事務局の関係者は皆、本当に生きているのかと疑いたくなるような得体の知れなさがある。
俺たちにこんなことをさせて何をしたいのか、何が欲しいのか。
自他共に認める馬鹿な俺には正直サッパリ分からないが、
こいつらの目的が何であろうと俺がここに来た理由は一つだけだ。
『直ちゃんを助けてあげたい』。
このゲームの中で人を助けたいなんて甘いことを口にしながら勝ち上がったのは、
間違いなく自分と直ちゃんだけだろう。聞かなくても分かる。
1回戦の時は疑心暗鬼の塊だった俺を、あの子はたった数日でここまで変えた。
リストラゲームで自分が落とされたのだと分かった時のあの絶望感。
けれど救われたのだと知った時の、信仰にも崇拝にも似たあの気持ち。
あの時一生直ちゃんには頭が上がらないと確信した。
「江藤様、こちらがファイナルステージの入り口になります」
足下に視線を落としながら歩いてしばらくすると、静かな声が洞窟に反響した。
慌てて顔を上げると、GARDEN OF EDENの文字が目に入る。
何をさせられるのかは知らないが、これまで事務局にされてきたことを思い出せば
どう考えたって目の前の黒い扉の向こうに「楽園」なんて待ってない。
嫌なことを思い出したところで、金色の焼印を渡されて自分の名前がアルファベット一文字になった。
「…………神崎様はどう思われるでしょうか」
扉を開ける決心が付かずにいると、エリーが独り言のように呟いた。
自分が漠然と不安に感じていた「何か」を言い当てられた気がしてドキリとする。
一度助けてもらっておいて、勝手にやって来て、『君を助ける』と言って、あの子は喜ぶだろうか。
悲しませるどころか、一億も払わせておいて簡単に戻ってくるなんて
いくらお人好しだったとしても怒るに決まってる。
けれど気持ちの揺らぎは、敗者復活戦での直ちゃんの泣き顔を思い出して簡単に姿を消した。
あの優しい子を、もう二度とあんなふうに泣かせたりしない。
「助けるって決めたんだ、今度は。俺じゃ全然頼りにならねえけど、」
エリーは相変わらず何も言わないで、静かに俺の言葉を聴いていた。
「絶対、守る」
最後の一言は、自分に言い聞かせて。
大きく息を吐いて覚悟を決めてから、扉に掛けた手に力を入れる。
「……ようこそ、ライアーゲームファイナルステージへ」
後ろは振り返らなかったから、エリーが最後にどんな顔をしたかは分からなかった。
エリーはもう母親かのごとく目を細めて見送ってるはずです。成長したわねえ、ぐらいの感じで(笑)
ブラウザバックでどうぞー。
ブラウザバックでどうぞー。